引っ越し業者に依頼した後でキャンセルする場合

お世話になった身近な人の不幸で、引っ越しどころではなくなってしまった。転勤の内示があったのに、事態が急転して行かなくて済むことになった。

離婚するため家を出ようと思っていたのに、元サヤにおさまってしまった…などなど、人生いつどこで何が起こるか分かりません。

やむを得ない事由で、引っ越し直前になってキャンセルしなければならなくなった場合はどうしたらよいのでしょう。

キャンセルを連絡する日にちによりペナルティが発生

引っ越しを契約後に取りやめる時の、キャンセル料の規定が「標準引越運送約款」で決められています。

この約款は、明文化することにより引っ越し業者と依頼主のトラブルを未然に防ぐ目的で、国土交通省で制定されたものです。多くの業者は見積書の裏面に印刷しています。

これは「目を通して下さい」と契約前の見積もりの段階で提示しなければなりません。しかし、細かい字の長文で記載されているため、なかなか隅々までじっくりと目を通し、一度に理解することは難しいでしょう。

せめて該当しそうな箇所をザッと目を通しておくだけでもいざという時に安心です。旅行のパッケージツアーではキャンセルを申告した日にちにより、段階的にキャンセル料が決められていますよね。それと同様に引っ越しでも標準の規定が設けられています。

詳しく読んでいくと旅行業界のキャンセル料と比較すると、引っ越し業界は消費者にやさしい設定であることにきっとあなたは驚きますよ。

2日前までならギリギリセーフ

引っ越し日の2日前、つまり前々日にキャンセルしても、解約に伴うキャンセル料金は発生しません。

仮に土曜日に引っ越し予定なら、木曜日に中止にしたいと連絡すれば「承知いたしました。またのご利用をお待ちしております」と、これだけで済むというわけです。

前日にキャンセルすると10%

引っ越し日の1日前、つまり前日からキャンセル料金が発生します。この場合は、見積もり額の10%相当分を解約手数料として払わなければなりません。

仮に土曜日に引っ越し予定なら、金曜日にキャンセルの連絡を入れた時に「引っ越し料金は10万円を予定していましたので、1万円の解約手数料をお支払いください」ということになります。

当日にキャンセルすると20%

当日になって急に中止にしなければならなくなった時は慌ててしまいますね。午前便でしたら尚更です。できれば作業員がトラックに乗り込んで出発する前に連絡したいものです。

当日にキャンセルする場合は、見積もり額の20%の解約手数料がかかります。つまり、10万円の見積もり額なら2万円、40万円の場合は8万円ということになります。

中止や延期の場合は速やかに連絡を

引っ越し業者側は依頼主が突然キャンセルすれば、予定していた売り上げがなくなってしまいます。

そこに運よく「至急、引っ越しをしたいのですが」と、他の依頼者が現れれば良いのですが、そんな都合のいい話は滅多にあることではありません。

その日にバイトする予定で、収入を当てにしていた人もたまったものではありません。引っ越しができなくなってしまったら、2日前まではキャンセル料金も無料だから、そのうち連絡すればいいや…と思わずに、可能な限り速やかに連絡してください。

こんなケースに要注意

引っ越しのキャンセルに伴う解約手数料は無料または既定の料金であるということを説明しましたが、その他に料金がかかる場合があります。

また、自分の都合以外でキャンセルになった場合はどうなるのでしょうか。よくあるケースをまとめてみました。

ダンボールを受け取った

契約時に、無料のダンボールを10箱ずつ束ねられたものを3パック、合計30箱受け取ったとします。

その内の、1パックをばらし、組み立て荷物を入れたものが7箱あり、残りの3箱は組み立てたが空のまま。というケースがあった場合は、束から外さず手をつけていない20箱は、そのまま返却可能な場合が多いです。

ただし、一度でも組み立ててしまった箱は、使用済みのため買い取らなければいけません。

回収手数料やダンボール一箱分の料金は、業者により異なります。また、自力で返却できないような時は買取りをお願いしている業者もありますので問い合わせてみましょう。

ダンボールの送料を払って送る方法もありますが、買い取っても金額がそう変わらない場合もあります。

その他、ガムテープや一部切り取ったエアパッキンなどは買取り、レンタルのハンガーボックスなどは返却しなければなりません。

既に付帯サービスを受けた

引っ越しに先立ち、エアコンを使っていない時期だったので、既に下請け業者が取り外して預かってもらっている。こんな時は、困ってしまいますね。

引っ越しが完全に中止になったのなら、また元通りに取り付けてもらう必要があります。この際、取り外した時と、取り付けた時の、それぞれの料金がかかることは覚悟しましょう。

この場合、引っ越しと同時に申し込んだために、エアコンの脱着料を通常の料金より安く請け負っていることがあり、引っ越しがキャンセルとなった場合、その当時の見積もり額がそのまま適用となるかどうかは不明です。

引っ越し業者や下請け業者の規模や事情により、若干の差が出てくることもありそうです。

業者から確認の連絡がなかった

引っ越しのキャンセルは2日前まではキャンセル料がかからず、それ以降はキャンセル料が発生することを知らせるためと、引っ越し内容の再確認の意味で、引っ越し日の2日前に電話連絡などで直接「荷主に連絡をし、見積もり額や訪問日時や段取りの最終確認をする」ことが義務付けられています。

それを怠った場合、荷主の都合で突然キャンセルになってしまった場合でも、キャンセル料の支払いはしなくてよいことが標準引越運送約款で決められています。

中止ではなく延期にしてほしい

今回は自己都合でたまたま当日の引っ越しはできなくなってしまったけれど、後日、どうしても引っ越しをしなければいけない場合はどうなるでしょう。

つまり、中止ではなく延期という形にはなるのですが、当日予定していた引っ越しができなくなってしまったことは事実ですので、その分のキャンセル料金は申告した日にちにより発生してしまいます。

ただ、依頼者も、その業者が不満でキャンセルしたのではない限り、また引っ越しの訪問見積もりを一からやり直そうとは考えないでしょう。

また、その業者で引っ越しを頼みたいと思えるなら、業者によっては、キャンセル料を規定どおり払わなくても済む場合があります。

独自の取り決めがある場合も

上記までは「標準引越運送約款」に基づいて説明してきましたが、業者によっては、若干の手を加え会社独自のルールを作り、国土交通省に届け出て許可を受けている場合があります。

それが正式に認められたものなら、依頼者もそれに従わなければなりません。法外なキャンセル料を請求したらそもそも許可が下りませんので、そんなに心配する必要はないでしょう。

不安があれば見積もり時に「標準引越運送約款と、どの点が違いますか?」と尋ねてみてください。

引っ越しできないほどの悪天候

「外出は控えてください」とアナウンサーがテレビで呼びかけるような台風の場合は、引っ越しは中止せざるを得ません。この際は、自然災害のため、当日の中止決定でもキャンセル料金は発生しません。

一番判断に迷うのが、台風ではないが暴風雨、大雪、当日は晴天でも、以前に降った大雨のため堤防が決壊して道路の通行禁止、高速道路封鎖の場合などでしょうか。

交通事情によるものは、迂回路などを検討しても移動が困難な場合は中止になり、キャンセル料金は発生しません。

悪天候の場合は判断が難しいのですが、基本的に大雨や降雪の日でも荷物を濡らさないように細心の注意をはらいつつ引っ越し作業は行われます。

ただ、局地的な暴風雨など、依頼者がどうしても今日中に運んでほしいと思っても、トラックでの移動や高所作業などで危険が生じると判断した場合は、業者側で中止にすることがあります。

もちろん自己都合ではないので、キャンセル料金は発生しません。

業者の都合によるキャンセル

あってはならないことですが、来る途中でトラックが事故に巻き込まれたり、作業員が次々と感染症で倒れたり、八方手を尽くしたがトラックと作業員の確保ができず、当日の引っ越しを延期せざるを得ないような状況がないとも言いきれません。

そのような時には、当然キャンセル料金の支払いの必要もなく、逆に引っ越し料金の値下げも可能でしょう。

まとめ

「標準引越運送約款」は、業者と依頼者とのトラブルを未然に防ぐ目的で制定されたとはいえ、どちらかといえば、消費者にとって手厚い内容のものであると感じます。

突然のキャンセルにも、速やかに連絡を取り、誠意をもって事情を説明すれば、決められたキャンセル料と実費以外の請求はないはずです。それなのに、引っ越しの中止で不当な金額を要求してくる業者は要注意。正式な許可を受けた業者ではない可能性があります。

仮に正式に届け出て許可を受けていても、悪徳として名高い業者かもしれません。何か怪しいと感じた時には、業者名でインターネットで検索してみると、他にも同じような手口で詐欺に近い被害にあった人のクチコミがあるかもしれません。

不当な料金を請求された時には、国民生活センターや全国の消費生活センターの窓口に相談してみましょう。「消費者ホットライン」などの窓口で電話でも受け付けてもらえます。

とにかく、引っ越しができなくなった時には、速やかに連絡をしましょう。どんな事情にしろ、無断キャンセルは避けてくださいね。